■相加平均.相乗平均.調和平均
日常生活で平均と言えば,2個の数字を足して2で割る,3個の数字を足して3で割る,...という相加平均がよく用いられますが,数学的には相加平均以外にも様々な平均があります.この頁では,正の数について相加平均≧相乗平均≧調和平均の関係があることを利用した不等式の証明を扱います.
【相加平均≧相乗平均の関係】(2文字の場合)
が成り立つ.等号が成立するのはa=bのとき
※高校では,等号付き不等号を≧や≦で表しますが,大学や専門書では
(前提)この定理は右辺に根号があり,a, bが正の数のときだけ(広く取っても0以上のとき)成り立ちます.負の数が混ざっているときは,この定理は使えないことに注意. (証明) 相加平均≧相乗平均の関係は,大小比較の原則:(左辺)-(右辺)≧0⇒(左辺)≧(右辺)によって証明できますが,いつも大小比較の原則に戻って証明していると長くなるので,相加平均≧相乗平均の関係を定理として覚えて使います.
等号が成立するのは,−=0すなわちa=bのとき
【例1】
(証明)a, b>0のとき,次の不等式が成り立つことを証明してください.また,等号が成り立つ場合を調べてください. +≧2
【例2】
(証明)a, b, c, d>0のとき,次の不等式が成り立つことを証明してください.また,等号が成り立つ場合を調べてください. (a+b)(c+d)≧4
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(参考:いろいろな平均) ○「足し算」という演算に関する平均 [相加平均]
2つの数の相加平均 x+x=a+b ⇒ x=
3つの数の相加平均 x+x+x=a+b+c ⇒ x=
○「掛け算」という演算に関する平均 [相乗平均]
2つの数の相乗平均 x×x=a×b ⇒ x=
3つの数の相乗平均 x×x×x=a×b×c ⇒ x=
○「分数の足し算」という演算に関する平均 [調和平均]
2つの数の調和平均 +=+ ⇒ =
⇒ = ⇒ x=
3つの数の調和平均 ++=++ ⇒ ...
⇒... ⇒ x=
○「2乗の和」という演算に関する平均 [2乗平均]
2つの数の2乗平均 x2+x2=a2+b2 ⇒ x2=
⇒ x=
3つの数の2乗平均 x2+x2+x2=a2+b2+c2 ⇒ x2= ⇒ x= ○「3乗の和」という演算に関する平均 [3乗平均]
2つの数の3乗平均 x3+x3=a3+b3 ⇒ x3=
⇒ x= 3つの数の3乗平均 x3+x3+x3=a3+b3+c3 ⇒ x3=
⇒ x=
※ 一般に正の数については [調和平均](*)≦[相乗平均]≦[相加平均] ≦[2乗平均]≦[3乗平均]≦...≦[n乗平均] の関係が成り立ちます.
[調和平均](*)≦[相乗平均]の関係は,, , ...に対して相加平均と相乗平均の関係を適用すれば証明できます.
○ 2つの数a, b>0の調和平均をxとおくと =+≧2⇒(分母は小さい)⇒x≦ ○ 3つの数a, b, c>0の調和平均をxとおくと =++≧3⇒(分母は小さい)⇒x≦
【問1】
(解答)…空欄に入るものを右の欄から選んでください.a, b, c>0のとき,不等式(a+b)(b+c)(c+a)≧8abcが成り立つことを証明してください.また,等号が成り立つ場合を調べてください.
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【相加平均≧相乗平均の関係】(3文字以上の場合)
(証明)○ ≧ が成り立つ.等号が成立するのはa=b=cのとき ○ ≧ が成り立つ.等号が成立するのはa=b=c=dのとき ○5文字以上のときも同様
次の(A)の方法で証明することが多いが,この因数分解公式が難しいときには(B)の方法で証明することもできる.ただし,(B)の方法も難しい部分はある.
(A)因数分解公式 x3+y3+z3−3xyz=(x+y+z)(x2+y2+z2−yz−zx−xy) において x, y, z>0のとき x+y+z>0 x2+y2+z2−yz−zx−xy={(x−y)2+(y−z)2+(z−x)2}≧0 したがって, x, y, z>0のときx3+y3+z3−3xyz≧0…(1) (1)において,x=>0, y=>0, z=>0とおくと a, b, c>0のときa+b+c−3≧0 したがって ≧ が成り立つ.等号が成立するのはa=b=cのとき
【例3】
(答案)a, b, c>0のとき,次の不等式が成り立つことを証明してください.また,等号が成り立つ場合を調べてください. (a+b+c)(ab+bc+ca)≧9acb a, b, c>0だから,相加平均と相乗平均の関係により a+b+c≧3>0…(1) また,ab, bc, ca>0だから,相加平均と相乗平均の関係により ab+bc+ca≧3>0…(2) (1)(2)を辺々かけると (a+b+c)(ab+bc+ca)≧33=9abc 等号はa=b=cのとき成り立つ
(1)(2)において相加平均と相乗平均の関係は,必要に応じて分母を払った形で利用してもよい.
(1)(2)において青色で示した>0の部分は必須です.これがなければa≧b,c≧dならばac≧bdと主張していることになりインチキ証明になります. |
(B)
![]() ≧≧ だから ≧…(1) 次に(1)において d= とおくと (左辺)=== (右辺)= となるから,両辺を4乗すると ()4≧abc 両辺を>0で割ると ()3≧abc ゆえに ≧ (C) さらにもっと一般的にn個の文字に対して証明するには,対数関数y=log xが上に凸であることを利用するのが簡単ですが,通常不等式の証明の単元を習うときにはまだ対数関数を習っていないため,対数関数が上に凸であることを利用する方法は高3以上の受験向きとなります. ![]() |
(補足説明)
対数関数上にあるn個の点の重心はグラフよりも下にある ![]() ⇒この点は右図で赤丸灰生地で示した2という点になる これに対して は 〇3点の場合 と書けることに注意すると,x座標で 同様にして そこで青で示した3つの点の重心(x座標の平均とy座標の平均を座標とする点)は右図の緑で示した三角形の内部にある.(赤丸灰生地で示した3という点) これに対して は 〇4点の場合 以下同様にして と変形すると,3点の重心と4番目の点を1:3に内分する点になるから,4点でできる4角形の内部にある. これに対して,右辺はその点から上に伸ばしてグラフと交わる点のy座標になるから |
【問2】
(解答)…空欄に入るものを右の欄から選んでください.a>0のとき,不等式 a++1≧3 が成り立つことを証明してください.また,等号が成り立つ場合を調べてください.
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【問3】
(解答)…空欄に入るものを右の欄から選んでください.a, b, c>0のとき,不等式 ++≧3 が成り立つことを証明してください.また,等号が成り立つ場合を調べてください.
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※(その他,次のような不等式も証明できます)
【例4】
a, b>0のとき(2a+)(b+)≧9
この不等式の証明を次のように行うと間違いになります.
(証明)2a, >0だから2a+≧2>0…(1) b, >0だからb+≧2>0…(2) 辺々掛けて (2a+)(b+)≧22=8…(3) ※元の不等式が≧9であることの証明を求めているのに対して,より「弱い」≧8を示しても証明にはなりません. そもそも,○≧□>0と●≧■>0から○●≧□■となるのは,2つの不等式で「両方との等号が成り立つ場合」ですが,上の答案において 2a=となるのは2ab=1の場合で b=となるのはab=2の場合なので 等号が2つとも成り立つことはありません.(1)も(2)の仮定して(3)を導くと元の条件よりも弱い条件になっています.だから,≧8というのは,述べていること自体は間違ってはいませんが≧9の証明にはなっていないのです. (2a+)(b+)=2ab+4+1+=2(ab+)+5 ここで,a, b>0のときab, >0だから,相加平均と相乗平均の関係から 2(ab+)+5≧2(2)+5=4+5=9 等号はab=1のとき |
【例5】
a, b, c>0のときbc(b+c)+ca(c+a)+ab(a+b)≧6abc
高校生が答案を書くときに「黙って使ってよい」のは「教科書に載っている公式」です.教科書に載っていない公式は,仮にあなたが知っていても黙って使うのは問題があります.
(答案)相加平均と相乗平均の関係で教科書に載っているのは2文字の場合までです.(3文字の場合はよく登場するのでギリギリセーフという解釈もできますが,4文字以上の場合はその公式を示す必要があります.) a, b, c, d, e, f>0のとき,相加平均と相乗平均の関係として次の不等式が成り立つ. a+b+c+d+e+f≧6 a, b, c>0のときb2c, bc2, c2a, ca2, a2b, ab2>0だから,相加平均と相乗平均の関係により
bc(b+c)+ca(c+a)+ab(a+b)
等号が成り立つのは,b2c=bc2=c2a=ca2=a2b=ab2のとき=b2c+bc2+c2a+ca2+a2b+ab2 ≧6 =6=6abc すなわちa=b=cのとき (例えば最初の等式からb2c=bc2⇒bc(b−c)=0, b, c>0⇒b=c,以下同様にしてa=b=cが導かれる.) |
【例6】
(証明)a, b, c>0のとき(a+)(b+)(c+)≧8 a, b>0のときa, >0だから,相加平均と相乗平均の関係から a+≧2>0 同様にして,b, c>0のときb, >0だから,相加平均と相乗平均の関係から b+≧2>0 同様にして,c, a>0のときc, >0だから,相加平均と相乗平均の関係から c+≧2>0 辺々掛けると (a+)(b+)(c+)≧222=8 等号が成立するのはa=, b=, c= からab=1 …(1), bc=1 …(2), ca=1 …(3)⇒abc=1 …(4) (1)(4),(2)(4),(3)(4)よりa=b=c=1のとき |
【例7】
(答案)a, b, c>0のとき++≧
a, b, c>0のとき, , >0だから, 相加平均と相乗平均の関係により ++≧3…(1) さらに (a+b)+(b+c)+(c+a)≧3>0だから 2(a+b+c)≧3>0 ≧…(2) (1)(2)より ++≧ 等号が成り立つのは,a+b=b+c=c+aすなわちa=b=cのとき |
■[個別の頁からの質問に対する回答][相加平均.相乗平均.調和平均について/17.6.23]
a>bのときa>(a+b/2)などの普通に不等式の証明をする問題と、a>0のときa+(1/a)≧2などの相加・相乗平均を利用する問題の解き方の区別(どういう時に相加・相乗平均を使うのか)が分かりません。見分け方はありますか?
■[個別の頁からの質問に対する回答][相加平均.相乗平均.調和平均について/17.4.21]
=>[作者]:連絡ありがとう. 授業や教科書レベルの問題で練習している場合に,相加相乗の関係を利用できるのは「登場する文字が正(または0以上)」の場合です.正負の符号が分からない問題について相加相乗の関係を適用することはできません.
【例】
しかし,「登場する文字が正(または0以上)」の場合でもすべて相加相乗の関係で解けるとは限りません.
【例】
見かけだけでは「あれかこれか」の区別ができるとは限りませんが,普通の証明になる場合も相加相乗の関係を使う場合も,「大小比較は差の符号で判断する」(大小比較の原則)という一段上の原則にまとめることができます.大小比較の原則に戻って証明すると,次のようになります.
(1)←
※相加相乗の関係は,証明済みの結果から出発できるので早くできるというだけのことです.だから無理に見分ける必要はないとも言えます.
(2) 下記の欄の数式に誤りがあると考えます。
”■相加平均.相乗平均.調和平均 ”
↓
”【相加平均≧相乗平均の関係】(3文字以上の場合)”
↓
”(C)”
↓
”対数関数は上に凸だから”の2行目左辺に”log(...)”が無いと考えます。
PS,資料がとても分かりやすく感謝しています。
■[個別の頁からの質問に対する回答][相加平均.相乗平均について/17.4.5]
=>[作者]:連絡ありがとう.ご指摘の通り,抜けていましたので訂正しました.(読んでくれている人がいるようなので,凸関数の重心について補足説明も追加する予定) 相加相乗平均でa>0.b>0を言っているならば
a+b≧2(ab)^1/2 >0 の最後の>0は本当に必要ですか?
チャートなどの問題集や参考書にも記述が省かれていると思うのですが。
=>[作者]:連絡ありがとう.単発でそれで終了なら構わない場合もありますが,さらに組み合わせて使う場合には,言わなければならない場合があります. ならば,辺々かけて ならば,辺々かけて そこで ならば,辺々かけて ならば,辺々かけて |