■簡単な合同方程式の解き方■
高校の数学Aの教科書では,通常,整式の合同や合同式には触れない.発展学習として,軽く触れている教科書,参考書はある.
すなわち,合同式の公式等を「覚えているか」どうかを問う大学入試問題は出題されないが,その性質は高校レベルで簡単に分かるものなので,合同式の性質を題材とする大学入試問題はあり得る.
【合同の定義】
a, bは整数,mは正の整数とする. a−bがmで割り切れるとき,「aとbはmを法(modulus)として合同である」といい a≡b (mod m) と書く.
「aとbはmを法として合同である」とは「aとbをmで割った余りが等しい」と言うこともできる.
(証明)
a=q1m+r1 (0≦r1<m) b=q2m+r2 (0≦r2<m) とおくと a−b=q1m+r1−q2m−r2 (0≦r1<m) =(q1−q2)m+(r1−r2) (0≦r1<m) (−m<r1−r2<m) だから a−bがmで割り切れる ⇔ r1−r2=0 ⇔ r1=r2 |
【合同式の基本的性質】
(1.1) 反射律
(証明)a≡a (mod m) a−a=0=0·mだから,aとaはmを法として合同であると言える.
(1.2) 対称律
(証明)a≡b (mod m)ならばb≡a (mod m) a−b=q·mならばb−a=−q·mだから成り立つ.
(1.3) 推移律
(証明)a≡b (mod m)かつb≡c (mod m) ならばa≡c (mod m) a−b=q1m b−c=q2m ならば a−c=(a−b)+(b−c)=q1m+q2m =(q1+q2)m だから成り立つ |
【合同式の四則計算(1)】
a≡b (mod m)かつc≡d (mod m)ならば
(証明)(2.1) a+c≡b+d (mod m) (2.2) a−c≡b−d (mod m) (2.3) ac≡bd (mod m) a≡b (mod m)かつc≡d (mod m)ならば a−b=q1m c−d=q2m (2.1)
(a+c)−(b+d)=(a−b)+(c−d)
(2.2)=q1m+q2m=(q1+q2)m だから,a+c≡b+d (mod m)が成り立つ.
(a−c)−(b−d)=(a−b)−(c−d)
(2.3)=q1m−q2m=(q1−q2)m だから,a−c≡b−d (mod m)が成り立つ.
ac−bd=ac−bc+bc−bd
※初歩的なことであるが,商=(a−b)c+b(c−d) =q1mc+bq2m=(q1c+q2b)m だから,ac≡bd (mod m)が成り立つ. |
【合同式の四則計算(2)】
a≡b (mod m)のとき,kを整数,nを正の整数とすると
(証明)(3.1) 両辺に同じ数を足してもよい a+k≡b+k (mod m) (3.2) 両辺から同じ数を引いてもよい a−k≡b−k (mod m) (3.3) 両辺に同じ数を掛けてもよい ka≡kb (mod m) (3.4) 両辺を何乗かしてもよい an≡bn (mod m) a−b=qmのとき (3.1) (a+k)−(b+k)=a−b=qmだから a+k≡b+k (mod m)が成り立つ (3.2) (a−k)−(b−k)=a−b=qmだから a−k≡b−k (mod m)が成り立つ (3.3) ka−kb=k(a−b)=kqmだから ka≡kb (mod m)が成り立つ (3.4) だから
a≡b (mod m)のとき,cを整数,cとmの最大公約数をgとすると
(3.5) ac≡bc (mod m)ならば (3.6) 特に,cとmが互いに素であるとき ac≡bc (mod m)ならばa≡b (mod m)
(3.6)は,合同式の両辺をmと互いに素な数で割ってもよいことを示している.
(証明)(3.5)←を示す ac≡bc (mod m)ならばac−bc=kmとなる整数kが存在する. cとmの最大公約数をgとすると c=c'g m=m'g (c', m'は互いに素) とおける.このとき ac−bc=km (a−b)c=km より (a−b)c'g=km'g (a−b)c'=km' c', m'は互いに素だから,a−bはm'で割り切れる. よって ac≡bc (mod m)ならば (3.6)←を示す 特に,cとmが互いに素ならばg=1だから a≡b (mod m) |
(4.1) [バシェの定理]
a, bは整数,mは正の整数とする. 合同方程式a≡b (mod m)
の解xについて1) aとmが互いに素のとき,解はただ1つ存在する. 2) a, mの最大公約数がg (≠1)で,bがgで割り切れるとき,g個の非合同解が存在する. 3) a, mの最大公約数がg (≠1)で,bがgで割り切れないとき,解は存在しない. |
【例題1.1】
(解答)5x≡3 (mod 7)を解いてください. 5×3=15=7×2+1 だから 5×3≡1 (mod 7) 両辺に3を掛けると 5×9≡3 (mod 7) したがって,x≡9≡2 (mod 7)は1つの解になる. (4.1)により,解はただ1つであるから, x≡2 (mod 7)…(答)
単純計算で検算してみる
mod 7で分類すると,整数は次の7種類に分かれる. x=7n, 7n+1, 7n+2, 7n+3, 7n+4, 7n+5, 7n+6 各々5xを求めると 5x=35n≡0 (mod 7) 5x=35n+5≡5 (mod 7) 5x=35n+10≡3 (mod 7)⇒〇 5x=35n+15≡1 (mod 7) 5x=35n+20≡6 (mod 7) 5x=35n+25≡4 (mod 7) 5x=35n+30≡2 (mod 7) 以上のように,x=7n+2の場合だけ,合同式を満たす. |
【例題1.2】
(解答)17x≡11 (mod 13)を解いてください. 17×3=51=13×4−1 17×3≡ −1 (mod 13) 17×(−3)≡ 1 (mod 13) 17×(−33)≡ 11 (mod 13) x=−33≡ 6 (mod 13)…(答)
検算
x≡ 6 (mod 13) ならば 17x≡ 102=13×7+11 (mod 13) 17x≡ 11 (mod 13) |
【例題2.1】
(解答)15x≡6 (mod 21)を解いてください. 15と21の最大公約数はg=3 6はg=3の倍数になっているから解は存在する(3個ある) 15x≡6 (mod 21) の各数を3で割ると 5x≡2 (mod 7) −5=−7+2 だから 5×(−1)≡2 (mod 7) 1つの解は x≡−1≡6 (mod 7) 元の問題の解は x≡6, 13, 20 (mod 21)
検算
15×6=90=21×4+6≡6 (mod 21) 15×13=195=21×9+6≡6 (mod 21) 15×20=300=21×14+6≡6 (mod 21)
【例題2.2】
(解答)35x≡15 (mod 20)を解いてください. 35と20の最大公約数はg=5 15はg=5の倍数になっているから解は存在する(5個ある) 35x≡15 (mod 20) の各数を5で割ると 7x≡3 (mod 4) 7=4+3 だから 7×1≡3 (mod 4) 1つの解は x≡1 (mod 4) 元の問題の解は x≡1, 5, 9, 13, 17 (mod 20)
検算
35×1=35=20+15≡15 (mod 20) 35×5=175=20×8+15≡15 (mod 20) 35×9=315=20×15+15≡15 (mod 20) 35×13=455=20×15+15≡15 (mod 20) 35×17=595=20×29+15≡15 (mod 20) |
【例題3.1】
(解答)7x+5y=3となる整数x, yを求めてください. mod 5で 7x≡3 (mod 5) 7×4=28=5×5+3 7×4≡3 (mod 5) x≡4 (mod 5) x=5t+4(tは整数) これを元の問題に戻すと 7(5t+4)+5y=3 5y=−25t−25 y=−7t−5 (別解) mod 7で 5y≡3 (mod 7) 5×2=10=7+3 5×2≡3 (mod 7) y≡2 (mod 7) y=7s+2(sは整数) これを元の問題に戻すと 7x+5(7s+2)=3 7x=−35s−7 x=−5s−1 |
【例題3.2】
(解答)11x−19y=13となる整数x, yを求めてください. mod 11で 問題から −19y≡13 (mod 11)…(1) 他方で,自明なこととして 22y≡0 (mod 11)…(2) (1)+(2) 3y≡13 (mod 11)…(3) ところで 3×(−3)=−9=−11+2 だから 3×(−3)≡2 (mod 11) 1つの解は y≡−3≡8 (mod 11) したがって y=11t+8(tは整数) これを元の問題に戻すと 11x−19(11t+8)=13 11x=19×11t+165 x=19t+15 (別解) mod 19で 問題から 11x≡13 (mod 19)…(1) 他方で,自明なこととして 19x≡0 (mod 19)…(2) (2)−(1) 8x≡−13 (mod 19)…(3) (1)−(3) 3x≡7 (mod 19)…(4) ところで 3×(−4)=−12=−19+7 だから 3×(−4)≡7 (mod 19) 1つの解は x≡−4≡15 (mod 19) したがって x=19s+15(sは整数) これを元の問題に戻すと 11(19s+15)−19y=13 19y=11×19s+152 y=11s+8 |
次の定理は「中国剰余定理」と呼ばれる.このページでは,定理の証明は省略するが,この定理によって存在と一意性が示される連立1次合同式の解き方を考えてみる. は
【例題4.1】
(解答)7で割ると1余り,5で割ると2余る整数をすべて求めてください. (1)よりx=7s+1(sは整数)とおける. これを(2)に代入すると 7s+1≡2 (mod 5) 7s≡1 (mod 5) ここで 5s≡0 (mod 5) だから,差を取ると 2s≡1 (mod 5) 2×3=6=5+1 だから s≡3 (mod 5) s=5t+3 結局 x=7(5t+3)+1=35t+22(tは整数)…(答) (算数で攻める・・・) (1)から,35で割ったときの余りは,1,8,15,22,29 このうちで,5で割ると2余るのは22 x=35t+22(tは整数)・・・(答) 【例題4.2】のように数字が大きくなったときに,この答案の書き方では,大変だという心配はある |
【例題4.2】
(解答)5で割ると2余り,7で割ると3余り,11で割ると4余る整数をすべて求めてください. (1)よりx=5s+2(sは整数)とおける. これを(2)に代入すると 5s+2≡3 (mod 7) 5s≡1 (mod 7)…(2’) ところで 7s≡0 (mod 7) だから,(2’)との差を取ると 2s≡−1 (mod 7) ここで 2×3=6 だから s≡3 (mod 7) s=7t+3(tは整数)とおける. x=5(7t+3)+ 2=35t+17(tは整数)…(4) これを(3)に代入 35t+17≡4 (mod 11) 35t≡−13≡−2≡9 (mod 11) ところで 33t≡0 (mod 11) だから,差を取ると 2t≡9 (mod 11) ここで 2×10=20=11+9 だから 2×10≡9 (mod 11) t≡10 (mod 11) t=11w+10(wは整数)…(5) (5)を(4)に代入する x=35(11w+10)+17=385w+367(wは整数)…(答) (算数で攻める・・・) (1)(2)から,35で割ったときの余りは17 つまり,385で割ったときの余りは, 17,52,8/7,122,157,192,227,262,297,332,367 このうちで,11で割ると4余るのは367 x=385t+367(tは整数)・・・(答) |
n次合同式(n次合同方程式) を解くための解の公式のようなものはないが,次の例のように気長に計算すれば,いずれは解が求まる.
【例題5.1】
(解答)mod 5で整数は次のいずれかの形に書ける. 5t, 5t±1, 5t±2 各々題意を満たすかどうか調べてみると 2(5t)2+3≡3 (mod 5) 2(5t±1)2+3≡5≡0 (mod 5) 2(5t±2)2+3≡11≡1 (mod 5) したがって,x=5t±1 すなわち解は次の2通りある. x≡1 (mod 5) x≡4 (mod 5) ※この問題が,もし 一般に,mod mのn次合同式の解はm通り以下であるとは言えるが,具体的に何通りになるのかは問題ごとに異なる. |
【例題5.2】
(解答)(∵) a2≡b (mod m)ならば (m−a)2=m2−2am+a2 (mod m) により (m−a)2≡b (mod m) となるから したがって,x≡3, 8 (mod 11)…(答) mod mの合同方程式が与えられたとき,上記の【例題9, 10】のようにmの剰余類で分類すれば解けるが,mが大きな値の場合には,分類が煩雑になるため,この方法だけで解くことは容易でない. |