== 行列式 ==
○ はじめに
・ 行列式は「連立方程式」「逆行列」「固有値」などに関連していろいろな場面で登場する.

・ 行列式は正方行列に対応して定まり,正方行列でない行列に対して行列式は定義されない.また,行列式は単なる数(スカラー)で,ベクトルや行列のように多くの成分からなるものではない.

 この頁では行列式の数学的な定義に深入りせず,「行列式の値を求めること」と「簡単な変形ができること」までを目標とする.

・ 実数値で与えられた行列の行列式の値を求めるだけなら,○1だけでよい.
・ 線形代数の基本として筆算で変形するときは○3,○5が必要になることがある.
・ 統計などの応用でしばしば登場するのは○4

○1 【行列式の値をExcelで求めるには】
各成分が整数,小数,分数の数値の場合はExcelで計算できる.
文字式を含む場合はExcelでは無理(π,e などの記号定数や根号を含む場合は近似値になる)
 Excelのワークシートに表1のように4×4の正方行列の各成分を入力してあるとき,E4のセルにこの行列の行列式の値を書き込むには,行列式を計算する関数MDETERM(行列の範囲)を利用するとよい.
(1) 式を直接書き込むときは求めたいセル(E4とする)に=MDETERM(A1:D4) と書き込むとよい.
(2) 関数名を覚えずに関数の挿入からメニューをたどっていくときは,
 画面上の数式バーの左にあるfxをクリック
→関数の分類:「数学/三角」または「すべて表示」
 関数名:MDETERM OK
→配列:A1:D4 OK
表1
  A B C D E
1 1 -2 3 2  
2 -2 2 0 2  
3 2 4 -1 -2  
4 3 5 -7 -6  

この行列の行列式は -102 になる.
(Excel練習用)問題
 次の行列の行列式の値を求めよ.(各々画面上でドラッグ・コピーしてからExcelに貼り付けて,計算を行うとよい.)
(1) 
3 1
4 2
(2)
1 0
3 -2
(3)
0 -1 -1
3 2 1
5 -2 0
(4) 
0 1 3
-2 -3 -5
4 -4 4
(5)
1 -2 3 2
0 2 0 2
0 0 -1 -2
0 0 0 -6

(解答)
(1) 2 (2)  -2 (3) 11
(4) 48 (5)  12  
○1の2 【行列式の値をwxMaximaで求めるには】
wxMaximaでは文字式やπ,e などの記号定数,根号を含む場合も計算できる
※フリーの数学ソフトwxmaximaのインストール方法や初歩的な操作はこの頁
(1) はじめに行列に名前を付けて,(正方)行列の成分を手入力で行う
ここでは を例にとって解説する.
wxMaximaのメニュー画面から,「代数」→「手入力による行列生成」と進み
行数:2
列数:2
タイプ:一般
変数名:A
OKとする.

成分を 1 2 3 4 と入力する(タブキーが使える)OK

(2) 上で入力した行列に対して行列式の値を求める
入力したばかりの入力行  (%i...)の行 にカーソルを置いて
「代数」→「行列式の計算」を選択すると −2 が出力される

※wxMaximaで記号定数πは %pi,eは %e,根号はsqrt(2)などと入力します.出力されるときは各々π,e,になります.
(wxMaxima練習用)問題
 次の行列の行列式の値を求めよ.
(1)
とおくとき,det(A)を求めるには

(解答)
行数:2,列数:2,タイプ:一般,変数名:Aの行列とし,成分を
%pi/2%pi/3
%pi/3%pi/4
のように入力する.

次に,その入力行にカーソルを当てて,「代数」→「行列式の計算」を選択する

結果:になります.
(2)
とおくとき,det(B)を求めるには

(解答)
行数:2,列数:2,タイプ:一般,変数名:Bの行列とし,成分を
(-1-sqrt(3))/2(-1+sqrt(3))/2
(1-sqrt(3))/2(1+sqrt(3))/2
のように入力する.

次に,その入力行にカーソルを当てて,「代数」→「行列式の計算」を選択する

結果:一旦,少々複雑な式が出力される.
出力された式にカーソルを当てて,「式の変形」→「関数の整理」を選ぶと
になります.

○2 【行列式を表す記号】
 行列Aの行列式を表す記号としてdet(A) , |A|などが用いられる.この頁では主にdet(A)を用いる.

(※ 行列式を英語でdeterminantという.参考までに,数学記号として行列式の書き方は上のように決まっているがdet(A)を「何と読むか」は決まっていない.determinant Aと読む人が多いかも.)  

 A= のとき det(A)=2
 直接などと書くこともできる.
 行列式を|A|で表すときに,この記号は絶対値とは関係がなく,負の値にもなることに注意:上の問題(2)では|A|= −2

 行列式は単なる数なので,和差積商などの演算の中に使うこともできる.

 det(A)det(B)=6 , など

○3 【行列式の性質 I 】 ・・・余因子展開による計算
 (はじめに述べたように,この頁では行列式の数学的な定義に深入りしないが,行列式の性質の簡単な部分のみ触れる.)
(1) 1次正方行列(1×1行列)の行列式はその数とする.
(2) 2次正方行列の行列式は,ad−bcとする.
(3) 3次正方行列の行列式は,次のように2次正方行列の行列式で定義できる.
a11·a21·+a31·

※3次正方行列だけに適用できるサリュの方法もあるが,他の行列には適用できないので,ここではふれない.

(4) 以下同様にしてn次正方行列の行列式は(n-1)次正方行列の行列式に展開したものによって帰納的に定義する.・・・(前のものによって次のものを定義する.)

(1)
det( 3 )=3

(2)
det=2·4−1·3=5
(3)

=3(−20+12)−2(−16+6)+(−8+5)=−24+20−3=−7

※ 各成分aijに対して

(−1)i+jaij(その行と列を取り除いた行列の行列式)

余因子という.
※ また,1つの列または1つの行についてすべての余因子を加えたもの,例えば
a11·a21·+a31·
余因子展開という.
(ここでは第1列に関する余因子展開を示したが,「どの列について」もしくは「どの行について」余因子展開しても行列式の値は等しくなり,ただ1通りに定まる.)
たとえば,第1行に関する余因子展開は次のようになる.

=3(−20+12)−4(−8+2)−(12−5)=−24+24−7=−7
(2) 2次正方行列の行列式  
a det( d )−c det( b ) =ad−bc

(3) 3次正方行列の行列式
○ 各(i,j)成分に対して,i行とj列を取り除いた残りの行列を考える.
○1 例えばa11に対しては,次のようにa22a33の2×2行列を考える.
a11 a12 a13
a21 a22 a23
a31 a32 a33
 次に,a11·を考えてその符号をとする.
○2 a21に対しては,次のようにa12a33の2×2行列を考える.
a11 a12 a13
a21 a22 a23
a31 a32 a33
 次に,a21·を考えてその符号をとする.
○3 a31に対しては,次のようにa12a23の2×2行列を考える.
a11 a12 a13
a21 a22 a23
a31 a32 a33
 次に,a31·を考えてその符号をとする.
 これらの和を求めたものを第1列に関する「余因子展開」という.
a11·a21·+a31·

 次の表のように(1,1)成分からスタートして各(i,j)成分に符号を付ける.・・・式では(−1)i+jと書かれるが,結果は「左上端が+のチェック模様」になる.
 水色で示したのは第1列に関して余因子展開するときに使う符号
符号表
 次の行列の行列式を余因子展開によって求めよ.
(1)
1 0 2
3 0 1
2 1 1
(2)
2 0 0 0
1 2 1 -2
-3 -1 1 2
1 0 0 -1
(解答)
(1) 第2列は0が多いので,第2列で展開すると楽にできる.
−0+0−(1·1−3·2)=5

(2) 第1行は0が多いので,第1行で展開すると楽にできる.

 次に第3行は0が多いので,第3行で展開すると楽にできる.
2( 0−0+(−1)(2+1) )=−6

(1) 上三角行列,下三角行列,対角行列の行列式はいずれも対角成分の積になることを示せ.

(2) 単位行列の行列式は1になる(det(E)=1)ことを示せ.
(解答)
(1) 上三角行列について
 第1列について展開すると a11(残りの3×3行列の行列式)
 さらに,第1列にについて展開すると a11a22(残りの2×2行列の行列式)
 以下同様にして,a11a22a33a44になる.

下三角行列,対角行列についても同様にして示される.

(2) (1)の対角行列の行列式において,対角成分がすべて1のときを考えると分かる.

○4 【行列式の性質 II 】[後の応用でしばしば登場する!!]
(a) ある行列とその転置行列の行列式は等しい.
det( tA)=det(A)
(b) 行列の積の行列式は行列式の積に等しい.
det(AB)=det(A) det(B)
(a) ある行列の第i行について余因子展開した式は,転置行列の第i列について余因子展開した式と同じ式になるから,それらは等しい.

(b) 証明略
 この性質から,次の等式が成り立つ.
det(ABC)=det(A) det(B) det(C)
Aの逆行列A−1について
AA−1=E → det(AA−1)=det(E)
 → det(A) det(A−1)=1 → 

○5 【行列式の性質 III 】筆算で変形するときに使う
(1) 行列の1つの行(または1つの列)を定数k倍すると行列式はk倍になる.
※この性質から,「1つの行(または列)の係数を0以外の数でくくって行列式の外に出せる」ことになる.
(2) 2つの行(または列)を入れ替えると行列式の符号が変わる.
(3) 行列の1つの行(かたは1つの列)の定数k倍を他の行(または列)に加えても行列式は変わらない.
(1) k倍した行について余因子展開すると分かる.




(2)(3)この頁では証明略
(1)(2)(3)を組み合わせて、行列式を扱いやすい形に変形していくことができる.

1 3 -1 2
1 2 1 -2
-3 -1 1 2
2 4 -1 1
の行列式を求めたいとき
第2行:第2行-第1行
第3行:第3行+第1行×3
第4行:第4行-第1行×2 により第1列に0を作ると簡単になる
1 3 -1 2
0 -1 2 -4
0 8 -2 8
0 -2 1 -3
次の3×3行列について
-1 2 -4
8 -2 8
-2 1 -3
第2行:第2行+第1行×8
第3行:第3行-第1行×2 により第1列に0を作ると簡単になる
-1 2 -4
0 14 -24
0 -3 5
以上により,1*(−1)*(70−72)=2
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