12 緑の桜
 街中の桜が盛りを過ぎた頃、上京の辺りを歩くと不思議な光景を見ることが出来る。

 上立売通りを智恵光院から西に入ると右手に「西陣聖天・弘法大師」」と書かれた真っ赤な提灯が掲げられている。西陣の聖天さんとして知られる「雨宝院(ウホウイン)」である。
 この寺、もとは千本五辻に在ったものが応仁の乱で焼失し、16世紀の末頃に現在地に再建されたものと聞く。
 提灯の掲げられた門の左手には塀越しに鮮やかな新緑の葉を繁らせた樹が枝を伸ばしており、風が吹くと萌葱色の若葉がヒラヒラと舞い落ちる。

 近づいて確かめると若葉と見えたのは花びらでないか、しかも桜の。 陽に映えて薄黄緑に光る花は紛れもなく桜の花。
 濃く淡く紅色にもえる桜に馴染んだ目には、一種清々しい夢幻の景である。
 境内に入ると桜の花を始め数々の花が咲き競っている。本堂前の桜は御室の八重桜と同種で「歓喜桜」と呼ばれている。
 共に四月中〜下旬頃が見頃である。

 観音堂に安置されているのは藤原期の作と伝わる千手観音立像で重要文化財に指定されている。
 散策のおりに一度訪ねてみられる事をお勧めする。

 TY

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