自由研究3−4
下2桁の積
《目次》
1 下1桁の積
2 下2桁の積
3 素因数分解の困難さ
4 京都大学入試問題


■ 2桁程度の整数ならば,何で割り切れるか簡単に分かります.しかし,4桁,5桁,...となってくると,どのような整数で割り切れるかを言い当てるのは,容易ではありません.(2,5の倍数は直ちに分かります.3,7,9,11などの倍数も少し計算すれば見分けられます.しかし,横に電卓があれば割った方が速いようです.)

1 下1桁の積
 そこで,下1桁(1の位)の数を見て,組合わせを少しでも絞り込むことができないかどうか考えてみます.2の倍数,5の倍数はいつでも直ちに分かるので,これらについては割れるだけ割って,取り除いておきます.また,2つの整数の積において,結果が1の位に影響するのは,どちらも1の位の数だけです.そこで,1の位の数の積を演算表にまとめたのが次の表です.
 例えば,×=63ですので,×の1の位の数はです.

1
3
7
9
1
1
3
7
9
3
3
9
1
7
7
7
1
9
3
9
9
7
3
1
■ この表は,行(横の並び)と列(縦の並び)を入れ替えても変わりません.(右下に向かう対角線に関して対称です.n×m=m×nだから)
その他,この表には,次のような特徴があります.
 
1. どの行にも,どの列にも同じ数は登場しません.
2. どの行にも,どの列にも1,3,7,9が登場します.
3. 積が1,3,7,9となる組合わせは4通りずつあります.
(1.の証明)
行の標題をn,列の標題をa,b(a>b)とすると,naとnbが同じ数となるのは,na−nb=n(a−b)が10で割り切れるときです.ところが2と5の倍数は取り除いてあるので,nは2,でも5でも割り切れません.また2≦a-b≦8なのでa−bも10では割り切れません.以上により,na−nbは10で割り切れないので,na,nbは異なる数です.(列についても同様にして示されます.)
(2.の証明)
1.によりどの行にも同じ数はないので,1,3,7,9が1回ずつあります.(列についても同様)
(3.の証明)
どの行にも1,3,7,9があるので,1,3,7,9はいずれも4回登場します.
■ 以上の考察から分かること
 素因数分解をするに当たって,不要な組合わせの検討を省略できれば,画期的なことです.しかし,例えば積の下1桁が3となる組合わせは,1,3,7,9のどの数にもあり,1×3,(3×1),7×9,(9×7)のいずれも可能です.()内だけ省略可能です・・・要するに前が大きい方の数になる場合だけは検討しなくてもよいという自明の結論にたどり着きます.


2 下2桁の積
 同様にして,下2桁の数の積を演算表にまとめたのが次の表です.
1 3 7 9 11 13 17 19 21 23 97 99
1 1 3 7 9 11 13 17 19 21 23 97 99
3 3 9 21 27 33 39 51 57 63 69 91 97
7 7 21 49 63 77 91 19 33 47 61 79 93
9 9 27 63 81 99 17 53 71 89 7 73 91
11 11 33 77 99 21 43 87 9 31 53 67 89
13 13 39 91 17 43 69 21 47 73 99 61 87
17 17 51 19 53 87 21 89 23 57 91 49 83
19 19 57 33 71 9 47 23 61 99 37 43 81
21 21 63 47 89 31 73 57 99 41 83 37 79
23 23 69 61 7 53 99 91 37 83 29 31 77
97 97 91 79 73 67 61 49 43 37 31 9 3
99 99 97 93 91 89 87 83 81 79 77 3 1
1. どの行にも,どの列にも同じ数は登場しません.
2. どの行にも,どの列にも1,3,7,9,...,97,99が登場します.
3. 積が1,3,7,9,...,97,99となる組合わせは40通りずつあります.
(1.の証明)
行の標題をn,列の標題をa,b(a>b)とすると,naとnbが同じ数となるのは,na−nb=n(a−b)が100で割り切れるときです.ところが2と5の倍数は取り除いてあるので,nは2,5で割り切れません.また2≦a-b≦98なのでa−bも100では割り切れません.以上により,na−nbは100で割り切れないので,na,nbは異なる数です.(列についても同様にして示されます.)
(2.の証明)
1.によりどの行にも同じ数はないので,1,3,7,9,...,97,99が1回ずつあります.(列についても同様)
(3.の証明)
どの行にも1,3,7,9,...97,99があるので,1,3,7,9,...,97,99はいずれも40回登場します.
■ 以上の考察から,下2桁の組み合わせを検討しても,積が交換可能であることを除いて省力化できる材料はありません


3 素因数分解の困難さ
 暗号は,軍事・外交などの秘密を要する分野ばかりでなく,預金の送信など通信を用いた社会生活において不可欠なものになっています.今日最も信頼度の高い暗号は,公開鍵方式と呼ばれるもので,素因数分解の困難さに依存しています.
 素因数分解の困難さとは,桁数の大きな2つの素数の積(100桁×100桁程度)だけを公開しておいて,もとの2数を隠しておけば,これを素因数分解するには,高速なコンピュータを用いても何千億年もかかるということです.このような大きな数で暗号化すると,文章を復元できるのは(事実上)もとの2つの素数を知っている本人だけになり,(事実上)安全な通信が行えるようになります.

 素因数分解の困難さを覆す何らかの方法が見つかれば,通信の安全性が保障されず,社会生活が混乱してしまうおそれがあります.しかし,実際にやってみると分かるように,5桁程度の整数の素因数分解でも,事実上「力まかせの総当たり」でいくしか仕方ありません.下何桁を見て絞り込むことさえほとんど見込みはありません.こんな訳で,桁数の大きな整数の素因数分解が困難であるからこそ,通信が安全に行えるということで,この問題が難しいことについて納得してください



4 京都大学入試問題
 受験問題に興味のある方のために,参考までに1999年度前期京都大学入試問題を紹介しておきます.なお,入試問題そのものには,素因数分解との関わりは一切触れられていませんので,このような文脈の中で紹介するのは,このホームページ作者の個人的な好みのせいであることを断っておきます.
 
 0以上の整数xに対して,C(x)でxの下2桁を表わすことにする.たとえば,C(12578)=78,C(6)=6である.nを2でも5でも割り切れない正の整数とする.
(1) x,yが0以上の整数のとき,C(nx)=C(ny)ならばC(x)=C(y)であることを示せ.
(2) C(nx)=1となる0以上の整数xが存在することを示せ.
(1999年度前期京都大学入試問題の引用)
答案
(1) nx−ny=n(x−y)が100で割り切れるとき,nは2でも5でも割り切れないから,x−yが100で割り切れる.ゆえに,C(x)=C(y).
(C(x)≠C(y)ならば,n(x−y)は100で割り切れないといってもよい.)
(2) (1)の結果により,2でも5でも割り切れないどんなnについても,C(n・0),C(n・1),C(n・2),C(n・3),...C(n・98),C(n・99)は異なる数となるから0,1,2,3,...,98,99が1一回ずつ登場する.したがって,C(nx)=1となる0以上のxが存在する.

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