西暦2000年がやって来た。新しいミレニアムの扉が、今、開こうとしている。
一方、日本の労働環境の大激変の加速は、さらに進んでいる。金融業界での激
しい淘汰再編成、製造業界のかつての優良企業達の極めてドラスティックな組
織構造改革、従業員を3分の1に削減すると発表した大手商社---などなど。

 はっきり言えるのは、これまで安心して身を預けきた「国」や「会社」とい
う存在に、無条件に自分の人生を託すことができなくなったということである。

 自分のことは自分自身で考え、行動しなければならない。この機会に、今ま
でのこだわりを捨ててみよう。その新しい一歩を踏み出すために、あたなの今
までの経験やこれからの可能性を考えて、あなたの仕事人生の「自分マガジン」
を編集しよう。 

1) 社会環境の変わり目は会社環境も変わる

 これからの企業が国際競争に勝ち残るためには、スピードとクオリティの両
立が必須だ。企業規模の大小に関わらず、小回りのきく企業経営が求められて
くる。

 組織が小さくなると、個人の働きが浮き彫りになり、小規模な組織単位での
利益貢献で実績査定がなされていく。巨大企業も部門ごとに小企業的規模に分
割され、それらの集合体という形になっていくだろう。

 どんなに重要な決定事項であっても、従来の日本的な深い階層組織と、関係
者全員のコンセンサスが前提の稟議システムなどを捨てなければ、これからの
時代には対応できない。 

 一人一人の社員の役割分担や責任がますます明確になる。そして、各自に与
えられた職務をまっとうするための方法論を自分で考えなければならない。
 会社は「サラリーマン」ではなく、「ビジネスマン」を求めている。ビジネ
スマンとは、会社の様々な資産を使って、どのようにすれば会社に貢献できる
のかを、自分で考えて実行できる人だ。 

 時代の変化に伴い、日本の会社は望むと望まないとに関わらず、変わって行
かざるを得ない。しかし、何よりも先に変わらなければならないのは、働く「
あなた自身」である。

 自分の市場価値を見つめ、どのような職場でどのような役割に就けば、自分
の能力をフルに発揮できるかを明確にしておこう。
 会社はどんどん変わっていく。あなたの仕事や所属する部門がいつまでも存
在する保証は全くない。

 ビジネスマンとして活躍する場を得るためには、あなた自身の準備が大切だ。
 まず、どんな仕事に興味を持ち、何のプロフェッショナルになりたいかを、
明確にしよう。これはあなた自身が自分の意志でやるべきことだ。会社の大小
に関わらず組織に依存する生き方は、これからの時代では通用しないことをし
っかりと認識して欲しい。

 これだけははっきり言っておく。勤続年数や年齢で給与が上昇していくシス
テムはもう過去のものだ。 

2) すべてのビジネスにベンチャー起業精神

 「ベンチャー起業」というと、一発勝負的な印象を持つ人が多い。実はそん
なことはない。ベンチャー企業は、ベンチャー・キャピタル等から投資を受け
て成り立っている。つまり、他人であるベンチャー・キャピタルの担当者に資
金を出させているわけだ。

 資金提供を得るためには、ビジネスとして成功する可能性が高いことを説得
できるだけの客観性のある事業企画案を準備しなければならない。 

 これは言い換えると、大企業で新規事業を発案し、社内の稟議審査を経て事
業を立ち上げることと何ら変わりがない。このようなベンチャー起業的考えを
持った人材の活躍の場は、老舗の大企業とベンチャー企業の両方にある。

 これは個人のスキルに依存する能力だ。これまでのような学歴や企業ブラン
ドからくるエリート意識は無意味となる。 

 ご存じの通り、シリコンバレーのIT企業のほとんどが目指す店頭公開市場で
あるナスダックが、ついに日本にもやってきそうだ。またそれに過敏に反応し
て、東京証券取引所が突然マザーズという新しい店頭株式市場を設立させた。

 これは証券取引所といえども時代の変化を無視できなくなった証である。 

 日本におけるベンチャー企業を支援するシステムの準備も着々と進んでいる。
これからは、起業する方も事業投資をする方も、また株式市場の運営者も激し
い競争の時代に入ってくる。残念ながら勝者と敗者の差が鮮明になってくるだ
ろう。
 真の意味の勝者とは他者に勝つのではなく、「自分の甘えに打ち勝つ人」だ。
自分の人生を自らコントロールする積極的な生き方と、企業等の外部組織に依
存する消極的な生き方---あなたはどちらの人生に魅力を感じるだろうか。 

3) 優良のベンチャー企業は資金調達が容易に

 これまでベンチャー企業は、あらかじめ大きな資金をプールしておくか、頭
を下げて銀行から融資を受けたり、大企業からの出資を受けて起業しなければ
ならなかった。しかし、今現在この状態は大きく変化していることを、みなさ
んはご存知だろうか。 

 実は今、日本におけるベンチャー・キャピタルの動きが活発だ。有望と思わ
れる企業に対して、会社規模の大小に関係なく、ベンチャー・キャピタルから
積極的にアプローチをかけてくるようになった。

 身近な例で恐縮だが、私が現在社長を務めているソフト会社にも、かなり頻
繁にベンチャー・キャピタルから電話がかかってくる。私の知る限り、最近で
はIT業界で起業や店頭公開を検討しているのに、ベンチャー・キャピタルが話
を聞いてくれないこと、といったようなことはないようだ。

 また、インターネット系企業などの場合は、平均株価が高くなってしまった
米国企業に投資するより、これから伸びる日本企業に投資した方が大きなリタ
ーンを見込むことができる、という新しい考え方も囁き始められた。 

 筋の良いベンチャー企業には、ベンチャー・キャピタルの方から群がって
「是非出資させて下さい」と頭を下げるようになった。

 もはやベンチャー企業にとって銀行は資金調達先ではなく、単に出入金をす
るための財布のようなものとなりつつある。ベンチャー・キャピタルからの出
資は、融資ではないので利息も全くかからないし、返済の必要もない。 

 日本にはすでに世界各国の一流ベンチャー・キャピタルがオフィスを構えて
いる。また老舗のベンチャー企業が、手持ち資金の有効利用ということで、自
らベンチャー・キャピタルを開業するところも増えている。しかし、残念なが
らベンチャー・キャピタルは、まだ外資系の方がプロフェッショナルという感
じがする。

 インターネットの新しいタイプのビジネスモデルをプレゼンテーションした
場合、外資の一流ベンチャー・キャピタルでは、テクノロジーやインターネッ
トビジネスを熟知しているアナリストが存在し、非常にシビアにビジネスプラ
ンを評価し、様々なアドバイスも行うことが多いからだ。 

4) インターネットという巨大なチャンス

 最近動きの激しい「インターネット業界」について考えてみよう。インター
ネットは、日本ではまだまだ一般に普及しているとは言い難い。しかし、今後
数年間でケーブル・インターネットやDSL、電力会社、衛星等の様々なインフラ
・サービスの激しい競争が起こるだろう。インフラ・サービスが激化すれば、
米国並みの高速な常時接続サービスが安価で提供されるようになることは間違
いない。

 そうすると日本のインターネット市場は、米国での場合と同様に、一気に巨
大化する。「インターネット・タイム」という言葉があるが、これからの数年
間はこの「インターネット・タイム」で刻まれ、毎日のようにこれまでの常識
が覆されていくことになる。

 そしてインターネットは、必ず我々のビジネスやライフスタイルに深く根ざ
したツールとなっていくだろう。 

 インターネット・ビジネスには様々な技術的な可能性が内在している。通信
インフラにおいては、様々な技術革新が続く。WEBを構成する技術の進化はま
だ始まったばかりだ。

 Eコマースに関しては、BtoBもBtoCもますます本格化し、様々な情報システ
ムの構築が進むだろう。そしてインターネット上に顧客情報や決済情報などが
頻繁に流れるようになると、セキュリティ関連の技術はますます重要になって
くる。

 企業内のイントラネット/エクストラ・ネットシステムも、インターネット
の流れを汲んで、大きく変化してくことだろう。また、インターネットは視聴
者参加型の双方向メディアとしての特徴も備えているが、この特性をどのよう
に効果的に使っていくかという技術の研修もこれからだ。

 つまり、「インターネット」には、日本の創造的なエンジニア達が活躍でき
るチャンスがたくさん秘められている。 

 ここで是非じっくり考えていただいた上で決意をして欲しいことがある。
「これからの5年間で自分がどうなりたいか」だ。例えばEコマースサイト設
計のスペシャリストとして日本一になる---などはどうだろうか。

 私は、「生活に役立つインターネットの新しい魅力を紹介し続ける業界のリ
ーダー」になっていたい。 

 インターネットはまだまだ形を変え、様々な分野で人々の役に立つ技術やサ
ービスが生まれていくことだろう。こんな将来性のある魅力的な業界に身をお
いていることが、いかに幸福であるかを再認識して欲しい。

 この分野では、大企業でも、新規ベンチャー企業でも猛烈な勢いで経験を持
つ人材を求めている。ただし、これからは本当に必要な人材のみが採用されて
いく時代だ。

 インターネット関連技術の経験や能力、また創造性や、やる気を持つ人材に
とっての将来は極めて明るい。 

 これからの社会ではIT先進国の欧米とのコミュニケーションがより重視され、
人材にとっての英語力はますます重要な要素となっていくだろう。でも、気を
付けなくてはならないのは、英語ができることと、コミュニケーションができ
ることとは全く違うということだ。

 人の言いたいことや気持ちを正確につかみ、自分の言いたいことを相手に解
る言葉で伝える能力が大切だ。 

5)これからの2年間で必須、仕事人生を自ら編集して「自分マガジン」を創ろう

 あたなの仕事能力や経験、そしてこれからやりたいことをじっくり考えて、
あなた自身の西暦2000年・自分の仕事人生を描いた「自分マガジン」を編集し
てみよう。
 以下にあげたキーポイントを見出しなどにして、あなたの「自分マガジン」
を完成させて欲しい。今がチャンスだ。 

・ いかなる企業に勤めていてもベンチャー起業精神は必要。大切なのは、そ
 れを自分の中でどのようアレンジするかだ。 

・ サラリーマンを卒業して、早く一人前のビジネスマンになる。 

・ 何者にも依存しないで、自立心を養う。 

・ 現状に不満を持つな。今の職場に残りたいならば、自分自身で環境を向上
 させる意気込みが必要。 

・ 今の職場が自分のやりたいことに遠いなら、すぐにやりたいことができる
 職場を探せ。 

・ 得意分野のスキルに更なる磨きをかける。 

・ 得意分野を増やす。 

・ 外部パートナーといえる、友人知人ネットワークをしっかりと確保し、
 メンテする。 

・ ずっと続けたい趣味は何か。 

・ これからの仕事人生10年計画を創る。インターネットイヤーの10年間
 は、過去の100年間に相当する変化が起こるかもしれない。10年はちょ
 っと長い,と思われる人は,まず,これからの2年以内に何を始めるか,5
 年以内でどのようなことを完結するかと、期間を区切って考えを進めてみる
 のもいい。 

 また、これからの社会で求められているのはIQとか能力だけでなく、人間性
やメンタルなタフさであることを、注意事項として念頭に入れよう。 

 自分がやってきたこと、自分がやりたいこと、自分の生き方、自分が魅力を
感じる企業や業界、自分が魅力を感じる企業文化---このようなことを何度も
自問して、自分の中身を書き出してみる。

 自分自身の仕事に関するすべての情報をワープロで打ち、プリントアウトし
たものをじっくり読んで感じ取って欲しい。きっと、「自分マガジン」の編集
方針が見えてくるはずだ。 

 編集方針が見えてきたら、すぐに行動を起こそう。2000年と2001年の2年間
は、私達が生きている間で一番変化が激しい時であろう。変化が激しい時は、
チャンスの時でもある。

 今の自分が何者であるかがわかったなら、「自分マガジン」の売り込み先を
探そう。売り込み先は、外部だけではなく、今勤めている企業内にもあるかも
知れない。

 現状に不満がないという理由で、「自分マガジン」の編集も試みず、行動も
起こさなければ、近い将来、必ず後悔する。今こそしっかりと目を見開いて自
分のやるべき事を探す時である。

 「自分マガジン」の編集を手始めに、新しいミレニアムに向かって自己革命
を進めよう。 

著者プロフィール 

 過去15年(学生時代も含めると約20年)以上にわたり、複数のIT系主要ベン
チャー企業においてその創設時期から、技術・経営戦略に深く関わり成功に導
いた。顧客である多くの大企業と在籍したベンチャー企業を通じて、両者の雇
用慣習や企業システムなどを学ぶ機会に恵まれる。
 日米の雇用慣行やそれを取り巻く文化の違いについて、「目からウロコが落
ちる」経験も豊富。

 また、ヘッドハンター達とのお付き合いや、数々の面接経験(人材として、
そして面接官として)も有し,「企業と人材の関係」に関するさまざまな知識
や見識を蓄積するに至る。
 これからの日本では、もっと「自然な人材の流動環境」の実現が必要だと考
えている。某外資系IT系企業の日本法人代表を経て、新しいインターネット・
ベンチャーを起業中。 

【Profession(日経BPジョブネット)】